ニュースレター

2018年9月4日

プレミアムカーへの新車装着を加速
~BMW 「M5」「X3」向けタイヤの開発~

NEWS LETTER No.08

横浜ゴムは新中期経営計画「グランドデザイン2020(GD2020)」の下、プレミアムカーへの新車装着を積極化する「プレミアムカー戦略」に取り組んでいる。すでにポルシェ、メルセデス・ベンツ、アウディなど数々のプレミアムカーに選ばれてきたヨコハマタイヤだが、今回新たにBMWへの納入が決定した。高技術・高品質を武器に横浜ゴムの「プレミアムカー戦略」はますます加速していく。

プレミアムカー市場は拡大。米国では2030年に+40%予測も

100年に一度の大変革時代を迎えたと言われる自動車産業。「電動化」「自動運転」「コネクテッド」「シェアリング」などが変革のコアとされているが、角度を変えて市場動向を眺めてみれば「プレミアム」と「コモディティ」の二極化という側面も浮かび上がってくる。新興国にはモータリゼーションの波が押し寄せ、自動車成熟国ではシェアリング(非保有化)が進めばコモディティ化が加速するのは当然だが、その一方で付加価値を求める層も増加する傾向となっているのである。世界の自動車生産台数におけるプレミアムカーの構成比は、2004年時点で9%だったところ2016年には12%へ。また、2030年頃の米国市場でのプレミアムカーの販売台数は、対2015年比で+40%になるという予測もある。

自動車生産台数におけるプレミアムカーの構成比自動車生産台数におけるプレミアムカーの構成比*Marklines、横浜ゴム調べ

2030年頃の年間販売台数(米国)2030年頃の年間販売台数(米国)*Roland Berger

横浜ゴムは中長期の成長戦略の柱の一つとして「プレミアムタイヤ市場における存在感の更なる向上」を掲げている。コモディティ化された自動車では、新興タイヤメーカーを含めて価格競争が激化していくが、それは横浜ゴムの強みを生かすという大前提の成長戦略には必ずしも合致しない。それよりも「技術と品質で選ばれるタイヤメーカーへ」。付加価値の高い高性能商品を意欲的に投入していくことこそが、成長を促すことへ繋がるのだ。

「プレミアムタイヤ市場における存在感の更なる向上」を実現するには、プレミアムカーへの新車装着は欠かせない。1980年代、欧州ではまったくの無名の存在であったYOKOHAMAが、ポルシェから技術承認を得て新車装着されたことから信頼を勝ち取り、世界OE(新車装着)プロジェクトへと繋がっていったことは、当ニュースレターNo.4に詳しいが、その活動は中長期成長戦略とも重なりさらに加速。直近ではBMWへ初の新車装着が実現し、X3とM5の足もとを支えることになった。

1991年のポルシェ装着の広告1991年のポルシェ装着の広告

“YOKOHAMAと仕事したい”
口コミで広がったハイパフォーマンス性

ポルシェと並んで新車装着タイヤの性能および品質への要求度が高く厳しいと言われるBMWだが、いきなり新規タイヤメーカーがハイパフォーマンスカーであるBMW M社のモデルに採用されるのは異例中の異例。先方からも「あり得ないことだ」と言われている。

タイヤ第二設計部 副部長 大聖康次郎タイヤ第二設計部 副部長大聖康次郎

とは言え、強烈な営業をかけてプッシュした結果ではない。プレミアムカーの新車装着タイヤの世界、とりわけハイパフォーマンスカーでまずモノを言うのはモータースポーツ界にも似た、現場での評判のようだ。そういったモデルであれば、どのカーメーカー、タイヤメーカーも開発拠点はニュルブルクリンクなど限られた場所に集中し、いい話も悪い話も、そこに集まる人たちの中に自然とウワサは広がって行く。ニュルブルクリンクは性能と品質、そして開発の姿勢などが判断される、健全だが厳しい競争の世界でもある。

そんな中、モータースポーツではいい関係を築いていたものの、新車装着では関わりをもっていなかったBMWが、ポルシェやアストンマーティン、メルセデスAMGなどで実績を積んでいた横浜ゴムと「仕事をしてみたい」と考えたのは自然な流れ。いくつかの開発プロジェクトが提示されたなかで横浜ゴムが希望したのがX3とM5だった。当時のOEタイヤ開発者・大聖(だいしょう)は、こう語る。

「我々の技術力で開発できると踏んでいたのはたしかですが、少々ハードルは高くても挑戦してみたいという気持ちもありました。ただし、M5のほうは『前段階で評価するのはかまわないが、実際に納入へ繋がるかどうかはわからない』、つまりは不合格となるかもしれないと諭されました。それでもひるまなかったのは、同時期にスペックが似たモデルのタイヤを先行して開発していたというアドバンテージがあり、そのフィードバックがしやすかったからです。」

かくして評価に臨むと、開発初期の段階で数あるコンペティターの中で、性能要求にすべて応えられたのは横浜ゴムだけだと聞かされた。とにもかくにも BMW M社との提携はとんとん拍子に決まっていったのだ。

ヨコハマ・テストセンター・ニュルブルクリンク

ヨコハマ・テストセンター・ニュルブルクリンク

ニュルブルクリンク「ノルドシュライフェ」ニュルブルクリンク「ノルドシュライフェ」

ただし、新型車の発売が近づくにつれ、苦労も増えていった。当初は、そのときの現行車、今でいう旧型車を改造した車両でタイヤ開発を進め、そのときは何の問題もなかったものの、いざ新型車のプロトタイプが出来上がってテストしてみると、クルマの性能が飛躍的にあがっており、タイヤに厳しくなった。BMW M社は、世界一過酷なサーキットであるニュルブルクリンクのノルドシュライフェ(全長20.832km)で、10周連続のフルアタックを敢行する。多くのカーメーカーが彼の地でテストをしているが、他にはない超高速コーナリングや高低差の大きさによる激しい縦Gなどにさらされたときの挙動を確認するのが主で、BMW M社のように長時間の連続走行による耐久テストをメニューとするのは異例だという。それも一般ユーザーとは次元の違う、プロドライバーの激しいドライビングでだ。タイヤの熱が上がりきったところでの大入力はつとに厳しい。それでもタイヤブローなど壊れてしまうのはもちろんのこと、性能の低下も許されない。

「一般的な乗用車用タイヤではまずあり得ない厳しいテストです。だからこそチャレンジのしがいがあるのですがプロトタイプ車両でのテストが始まってからは苦労しましたね。走行後のタイヤは想定よりも傷んでいて、設計や材料、構造、製造などあらゆる分野の横浜ゴムのエンジニアとともに改善へのアイデアを出し合いました。様々な検討を重ねていくうちにBMW M社がタイヤに望んでいる性能パッケージに対して、ちょっとしたズレを発見しました。それを手直しして晴れて満足がいくものへ仕上がったのです。」

初めてのBMWとの仕事で得た感触は、カーメーカーとタイヤメーカーの関係性が、依頼主と請負側などではなく、対等なパートナーシップのようだということ。開発を進めていくうちに信頼が得られ、横浜ゴムの意見にも真剣に耳を傾け、ときにはそれを採り入れることもあったのだ。

“アカデミックな開発が強みでした”
FEMを活用し「X3」の厳しい要求をクリア

X3では別の苦労があった。まず事前の要求スペックからして、かなりハードルが高くて面食らったのだ。X3用はランフラットタイヤ。パンクしても80km/hの速度で80kmの距離を走れるというメリットを持つが、エアプレッシャーがゼロになっても走れるようタイヤに占めるゴムの割合を多くして支えるというのも宿命。それは縦バネの硬さによる乗り心地悪化を招きやすく、転がり抵抗低減(燃費)ともトレードオフの関係にある。転がり抵抗は、走行によるタイヤの熱の発生、それに伴うエネルギーロスが主要因だが、ゴムが多ければ熱が溜まりやすいからだ。

BMW「X3」向けに開発された「ADVAN Sport V105」BMW「X3」向けに開発された
「ADVAN Sport V105」

横浜ゴムもランフラットタイヤの技術に自信を持っていて、新車装着実績もあったがそれと対比して、転がり抵抗低減への要求を筆頭に、ウエット性能、操縦安定性、タイヤの重量、乗り心地などの要求性能のハードルは高かった。

ところが、事前の打ち合わせで考え方を転換することができた。タイヤメーカーとしては、パンクしたときの走行時に壊れない技術力を強調したくなるが、先方はそこでオーバークオリティにするのは意味がないと言う。「速度80km/h、距離80km」を達成すればいいのであって、距離を100kmなどとする必要はない。その分を転がり抵抗低減や乗り心地に振り分けてくれないと困るとのことだった。つまりは、持てるポテンシャルを、各性能に綺麗に振り分けてバランスさせることが肝要だということだ。

そこで、開発の構造設計者が、先行開発部門出身だったということが功を奏することになった。先行開発ではFEM(有限要素法)を活用する。微分方程式を近似的に解くための数値解析と言われるが、ようは解析モデルさえしっかり作り込めればコンピューター・シミュレーションで最適解を見つけるのが容易くなるわけだ。

FEM解析(イメージ)FEM解析(イメージ)

「普通の構造設計者ではやらないようなアカデミックな取り組みで開発が進んでいくのが強みでした。限られた情報やデータから最適な形状とは何か、目指すべきターゲットはどこにあるということを絞り込めるのです。たとえば転がり抵抗を低減するにはゴムの量を減らす、つまりはどこかを薄くするのが有効です。トレッドのゲージ(溝の深さ)を細かく調整したりするのですが、運動性能や乗り心地との兼ね合いで、そこは絶対に薄くしてはいけない、ここなら影響はないということがFEMで把握できているので、前段階から適切な設計ができるのです。とりあえずプロトタイプを作って手直ししていくという手法とは違いますね。」

X3のランフラットタイヤで、あらゆる性能を絶妙にバランスさせていくときに、経験や勘ではなくデジタライズで追い込んでいくことが大いに貢献した。

イノベーションを追求し「技術と品質で選ばれるタイヤメーカーへ」

何はともあれ、M5とX3というBMWとの初仕事は、横浜ゴムにとって新たなチャレンジであり、知見や経験をもたらすこととなった。普通にリプレイスタイヤ(一般市販用)を作ろうというときに、企画段階からしてここまでの性能要求を自らに課さないだろうというほどに、高いハードルがあったからだ。それこそがプレミアムカーの新車装着の意義であり、極限を追うモータースポーツ用タイヤの開発に似たところでもある。

モータースポーツと似ていると言えば、短期的な経済合理性だけでみれば、あまり割に合うものでもないというところも共通している。ハードルが高ければ、開発リソースもふんだんにかけなければならないからだ。だが、そこで得られる技術的な知見の蓄積はイノベーション企業としては何ものにも代えがたい。技術の新しいトレンドは新型車が牽引するものだが、それに開発段階から関わるので革新に繋がることもある。

また、1980年代のポルシェ用タイヤがそうであったように、市場での信頼を高めるというマーケティング的な効果も見逃せない。とくにポルシェやBMWなどハイパフォーマンスカーでは、300km/hで走り続けても万が一のことがないようにと、タイヤメーカーを始めとするサプライヤーの品質管理や製造工程にも厳しい目を向けて監査している。

たとえばそれを知っているタイヤショップの前線などでは、ユーザーに自信を持って薦められるわけだ。第三者が信頼を保証する効果が得られるのである。

ポルシェやBMW M社は、とにかく走りへのこだわりが強く、通常の乗用車ではあり得ない領域でのテストなどの高いハードルがあるが、他のカーメーカーでも特有の難しさはある。

「ポルシェやBMW M社はレーシングカーのようで、ピンポイントで合わせ込んだ性能が求められます。少しでもズレるとクルマの性能が上手く発揮されないという面も持っているのですが、メルセデス・ベンツなどは特性が異なっていて、少々のズレには動じないような懐の深い車両特性を持っているのが興味深いところです。ロバスト性が高いのですね。だからといってタイヤの開発が楽というわけではありませんよ。逆にタイヤ側にも、たとえば突発的に路面状況が大きく変わった場面でも挙動変化を抑えるなどロバスト性の高さが求められるので、また違った難しさがあるのです。」

かように、プレミアムカーの新車装着は、横浜ゴムの強みを生かすという成長戦略にマッチしている。「技術と品質で選ばれるタイヤメーカーへ」。その道を着実に歩んでいける有効な手法なのだ。

主な納入実績自動車メーカー・ブランド(2018年7月現在。一部抜粋)

Acura

Aston Martin

Audi

Audi Quattro

Bentley

BMW

Chrysler

Citroen

Fiat

Honda

Infinity

Isuzu

Jeep

Lancia

Lexus

Lotus

Mazda

Mercedes-AMG

Mercedes-Benz

Mitsubishi

Morgan

Nissan

Peugeot

Porsche

Ram

Renault

Smart

Smart Brabus

Subaru

Suzuki

Tesla

Toyota

Volkswagen

Volvo