タイヤプランナーの独り言(スポーツタイヤ担当者編)~プロダクトの機能と美しさ~

プロダクトの製品企画者は、そのモノに対するこだわりや美学が強いものです。

今回はサマータイヤ(冬用タイヤではない通常シーズンのタイヤ)の中でも、よりシビアに機能を追求するスポーツタイヤ担当者の独り言をご紹介します。
2020.07.30

街乗りからサーキットまで楽しく走れる“ストリートスポーツタイヤ“

それは最も開発が難しいタイヤであると同時に、最も“こだわり”を出せるタイヤだと私は思う。

雨でも安心して走れるウエット性能、街乗りで不快にならない快適性、長く楽しく走れる耐摩耗性、フェンダーからちらりと見えるトレッドパターンやサイドデザインのカッコ良さ、そして何よりグイグイとコーナーを攻められるグリップ性能とコントロール性能。

これらすべてに対し一切の妥協を許さないのが、“ストリートスポーツタイヤ“だからだ。

私は新卒入社から5年ほど、タイヤ設計部に所属し、新車装着用(OEタイヤ)、アフターマーケット用(リプレイスタイヤ)のスポーツタイヤの設計をしてきた。
タイヤの設計は、トレッドパターン、プロファイル、コンパウンド、内部構造、これら4つから成り立っている。

そんな中で、プロファイルと内部構造のデザインが私の担当だった。


CADを用いてタイヤプロファイル、内部構造図を描く

シミュレーションを回し、性能を見積もる

目標性能達成のために、調整する

という流れだ。

*画像はイメージです

初めて設計したタイヤを私の教育係に見せたときに言われたことを今でも覚えている。

「まぁ性能は出てるけど、あんまり美しくないね」

私は思った。

「この人はヤバい人だ。こうなったらオワリだ」と。

それから、色々と美しさについて指導を受けた。
彼の言う“美しさ“というのは、いかに無駄なくスムーズでキレイなラインで描かれているか、ということだった。

私は、小さい頃からキレイ好きで整理整頓が完璧と自負があった。
リモコンを定位置に置くのは当たり前のことであり、シューズボックスには均等に靴を並べ、クローゼットには同じ種類のハンガーで同じ向きに均等に服を並べている。

ちなみにティッシュや缶ビールなどは、残り2個くらいになった時点で買い足して、買った順に向きも揃えて並べないと気が済まない。私なりのキチンとしたい哲学ともいえる。

そんな私が、無駄なくスムーズでキレイなラインを描け、と言われたことで、火がついた。
それ以降、シミュレーションの値が云々だけでなく、いかに美しい絵を描けるかを大切にしてきた。

機能を追求したタイヤは、同時に美しいもの。

後にわかったことだが、そういった美しさの追求が“こだわり“であり、特にスポーツタイヤでは重要な限界性能に関わってくることを知った。

例えば、
ほんの少しでもスムーズなトレッドプロファイルにすることで、滑らかな接地形状に、接地面積も大きくできる
ほんの少しでもトレッド下のゴムの厚みを薄く、かつ均等でスムーズなラインで描くことで、ハンドリングをよりダイレクトにできる
ほんの少しでもショルダーでのスチールベルトのラインを調整することで、ベルトリフト値を変えられてタイヤの剛性を高められる、などなど。
設計の最終段階になると、これらを0.05や0.1mmというレンジで調整している。

ひとつひとつはほんのわずかな違いかもしれないが、それらの積み重ねが最高の性能へ繋がるのだ。

後々、私が後輩の設計図をチェックしたときにこう言ったことは言うまでもない。
「いいと思うけど、美しくないな〜」


あれから4年、私は今、製品企画部に属しており、スポーツタイヤを企画する側となった。
経験しているからそこ分かる“こだわり“の詰まったタイヤの企画に尽力している。

そして皆さんには、”こだわり”を積み重ねて作り出しているということをちょっと頭の片隅に置いて、今後もスポーツタイヤを楽しんでいただけると私は嬉しい。

*現在開発途中であるスポーツタイヤ「ADVAN NEOVA CONCEPT」を東京オートサロン、大阪オートメッセなどで展示しました。

ご紹介ページは以下URLよりご覧ください。(大阪メッセのレポートページ)

https://www.y-yokohama.com/product/tire/hobby/report_vol26/

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