【ブラタモリ巡礼グルメ】鮑腸汁って何?~奈良編~

高低差や地形から改めて街を紐解くNHK『ブラタモリ』は、老若男女問わず町歩きファンから厚く支持される番組です。かくいう筆者も視聴者のそのひとり。
タモさんの辿った道を聖地巡礼しながら、ご当地の飯を巡る本シリーズ『ブラタモリ巡礼グルメ』、今回訪問するのは日本を代表する古都、奈良です。ご当地グルメといえば、柿の葉寿司に奈良漬けに……なんてパッと思いつくものはつまらない! 今回は町歩き中に偶然発見した、ここでしか食べられない鮑腸汁(ほうちょうじる)をご紹介します。
2019.06.26

タモさんの歩いた高低差を辿る

盆地というイメージの強い奈良ですが、高低差も確かに存在します。現在の奈良市の中心は近鉄奈良駅周辺。国宝・阿修羅像を収蔵する興福寺も近く、観光の拠点となっています。そんな誰もが訪れる場所に、高低差と深い歴史がありました。

注目すべきは近鉄奈良駅から興福寺に向かう間に通過する『東向日商店街』です。地面によく目を凝らせば、東側に立ち並ぶ商店だけ段差を見つけることができます。そして商店街を抜けた先、T路地を左折すると目の前に立ちはだかるのは辷坂(すべりざか)でした。
そう、この高低差こそが興福寺と深い関係性があるのです。神聖な敷地を区分として利用されたのが、この段差や傾斜でした。当時は興福寺から、遠くまで都を見渡せたといいます。権威や神聖さの象徴として機能する高台はこんなところにも。寺院や仏閣だけではない、地形を読む楽しみ方を発見しました。

猿沢池の裏で赤提灯を発見! 鮑腸汁ってなに?

興福寺横の猿沢池のすぐ裏、古き良き町並みが残る林元町。ふらりと散策していた最中、赤提灯を発見しました。そこに書かれているのは見慣れぬ文字列『鮑腸汁(ほうちょうじる)』。鮑=アワビの腸の汁、なかなか想像できないお料理を食すべく、のれんをくぐります。

郷土料理を大将がアレンジ。奈良でもここだけの味

早速『鮑腸汁』の疑問を紐解いてくれたのは、店内に掲示されてある張り紙でした。

——アワビの腸を見立てた手延べ麺を数種類の味噌とともに煮込んだ料理です。

戦国時代、大分を治めていた武将の好物はアワビでした。ある日、アワビを食べたく思うも、簡単に入手することはできず……。そんなときに家来が思いついたのが、アワビの腸に見立てた料理を作ること。小麦粉を練って手で伸ばした麺を煮込んだのがはじまりとされています。

つまり鮑腸汁は大分の郷土料理なのでしょうか。と、ここでお店の大将の登場です。何やら手に白い塊を持っています。

「コレが生地ね。これをこれから伸ばすんですよ」

——由縁を見る限り、大分の郷土料理ということでしょうか?

「元はそうなんだけど、僕は基本を参考にアレンジを加えて、ここだけの味をお出ししてるんですよ。例えば……」
そう言って、生地を指でつまみのばし始める大将。まるで魔法のように、みるみるうちに細く伸びていきます。

「ここまでが大分の食べ方。僕の場合は、これを二つに裂いちゃう」

ただでさえ細く伸ばした生地を次は縦に裂き始める大将。これぞまさに職人の技です。
「大分や大阪でも鮑腸汁を出しているお店はあるんだけど、こうやって手で細麺にするのは僕だけなんだよね」
鮑腸汁の新たな系譜がここ奈良に。ここでの『鮑腸汁』はつまり、「いづみ」の大将が紡ぎ出す、新・奈良の郷土料理でした。

冬にも夏にもうってつけ! 優しい味にほっと一息

数分後、テーブルにお待ちかねの鮑腸汁がやってきました。

まずは汁をひとすくい。芯から温まるような優しい味が口いっぱいに広がります。数種類の味噌を合わせたという汁は、赤味噌をはじめさまざまな味噌が混ざり合い、繊細な味を生み出しています。

お次は麺を。食べる場所によって厚さや縮れが異なり、噛みしめるたび楽しみが広がります。薄い部分は汁を吸って柔らかい印象に、厚めの箇所は麺の存在感を感じました。

行かなきゃわからない。一期一会の地元グルメを

「体が芯から温まるでしょ。冬はもちろん、夏にもいい汗をかけるからぴったりなんですよ」と大将。町並みにはガイドブックには載っていない情報が溢れています。土地の歴史や地形に目を向けぶらりと散策すれば、知られざるグルメとの出会いがあるかもしれません。

お店情報:

いづみ

この記事を書いたライター

大城実結


フリーランスライター・編集者。自転車や地域文化、一次産業、芸術を専門に執筆している。紙雑誌やWeb媒体問わず活動中。イラストや漫画も発表。月の半分は日本のどこかにおり、その土地の温泉や酒、食材に唸る日々が続く。

Webサイト:miyuo10qk.wixsite.com/miyuoshiro



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