再上映はない、世界に一本だけのロードムービー

2022.12.08

ロードムービーという映画のジャンルがある。
 
主人公はクルマやバイクで旅をしていて(もちろん他の移動手段のケースもある)、その旅の途中で遭遇するさまざまな出来事を軸に、ロードムービーの物語は進行する。
 
クルマやバイクで、と書いたけど、主人公がクルマに乗っているのか、バイクに跨がっているのかによって、ロードムービーの印象は大きく異なってくる。
 
それがバイク旅の場合には、バイクを駆る主人公が、まわりの情景のなかに剥き出しで存在する。だから映像(ドローンによる空撮をイメージしていただきたい)には、常にバイクで走っている「人」が映っている。
 
観客はバイクではなく、バイクで走り続ける人を見つめている。
 

一方でクルマ旅の場合、主人公はクルマのなかに存在しているのだから、スクリーンに映し出されるのはロードを走る「クルマ」ということになる。
 
バイク旅のビジュアル的な主役が「人」であるのに対して、クルマ旅のそれは「クルマ」そのもの。だから、ロードムービーの主人公がどんなクルマに乗っているのか、は物語の重要なカギとなる。
 
そのクルマが、最新のスポーツカーなのか、ポンコツのピックアップなのか。どんなクルマかによって、物語の印象は大きく左右される。たとえば「栄光のルマン」のスティーブ・マックィーンが、ビートルに乗って登場してはいけないわけです。
 
クルマが主役のロードムービーは面白い。クルマ好きにとっては。だけど、その面白さを“クルマに興味のない人”と共有できるかと言えば、どうだろう?
 
むしろ「人の物語」であるバイク旅のロードムービーのほうが、老若男女を問わず、バイク好きか否かに関わらず楽しむことができるような気がする。カギは、主人公がどんなバイクに乗っているかではないから。

ということは、つまり……

興味のない人にもクルマの魅力を伝えたいとするなら、語るべきは「クルマの物語(どんなクルマか)」よりも、クルマで走るからこそ出会える「人の物語(どんな感動か)」ではないだろうか。
 
テクノロジーの進歩は、素晴らしいクルマの物語ではある。でも知りたいのは、その進歩がどういうストーリーで新たな「人の物語」を紡いでくれるのか、ということ。
 
答えは、走り続けた道の、その先にきっとある。
 
走り出せば、誰もが、どんなクルマに乗っていようと、ロードムービーの主人公だ。ドライブを楽しむ僕らは、自分のクルマを俯瞰で眺めているのではないのだから。
 
フロントウインドウというスクリーンに次々と映し出される風景を、特等席に座って眺めながら、今日はどんな感動と出会えるだろう。
 
再上映はない、世界に一本だけのロードムービー……
 
アクセルを踏み込めば、それが開演の合図。


この記事を書いたライター

夢野忠則

自他ともに認めるクルマ馬鹿であり、「座右の銘は、夢のタダ乗り」と語る謎のエッセイスト兼自動車ロマン文筆家。

現在の愛車は手に入れたばかりのジムニーシエラと、トライアンフ・ボンネビルT120、ベスパET3 125。

   

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