バイクにまたがって気づいた、クルマのこと

2022.08.01

いい歳をして、普通自動二輪の免許を取得した。
 
正確に言えば、もういい歳だからこそ、これまでやれなかったこと、やり残したことをひとつずつ叶えていかねば、と一念発起してチャレンジした次第。

クルマの免許を取得して以来だから、じつに45年ぶりの教習所通い。自分の息子よりも若い教官に励まされながら、つくづく実感したのは、自分が思っている以上に自分は老いているのだな、という当たり前にして信じたくはなかった現実…。
 
まわりの若い連中と比べると、体力をはじめ、各部の機能やら神経やら感覚が劣化している。自分では簡単にできると思っていたことが、できない。若い人は1回の教習で習得してしまうのに、こちらは3回も4回もかかる。
 
その事実に直面した時は気力すらも折れそうになったけど、自分はもう若くないのだから当然なのだ、と現実を受け入れてからは気が楽になって、時間は掛かりながらも無事に免許を取得することができた。

普通自動二輪の教習1限目にやることは、倒れたバイクを起こすこと。400ccの教習車の車重は約200kg。起こそうとすると、これがびっくりするくらい重い。女性の方は、起こせずに1限目にして涙目になっていらっしゃる。
 
車重が1000kgを切るスポーツカーは軽くていいね!なんて気軽に言うけれど、それはとんでもなく重たい物体なのである。その物体を僕らは街中で、これまたとんでもない速度で走らせているのだということを、どれだけのドライバーが実感をもって運転しているだろう。
 
教習所に通い出してから気づいたことは、まだまだある。
 
二輪車は推進力を失うと倒れてしまうから、特に低速時にはアクセルやクラッチやブレーキの繊細な操作が求められる。自分のクルマがMT車なので、練習も兼ねて発進時のアクセルの開け方やクラッチワークを、これまで以上に意識するようになった。
 
すると運転が丁寧になって、その結果、どうなったかと言うと、愛車の燃費がびっくりするほど良くなった。いつも、どれだけがさつな運転をしていたのか…。
 
進路変更の際には、ウインカーを3秒前に出さねばならない。
 
教習所で改めて指摘され街中を走ってみれば、3秒前にウインカーで意思表示をしているクルマなんて、あまり見かけない。そのたびに二輪車がヒヤリとしていることに気づかない。

人に優しく、地球に優しく、と言うけれど…
 
どんなにクルマの安全性能を高めたって、とんでもなく重たい物体がとんでもない速度でぶつかれば人は傷つく。
 
どんなに環境にいいクルマだって、ドライバーががさつな運転をすれば燃費は落ちる。基本的なルールさえ守れずに、事故やトラブルが減るわけがない。
 
大切なのは一人ひとりが、まずは自分のクルマに優しく接することだろう。愛するクルマと走るその道が、人に地球に優しい車会(しゃかい)へと続いていくのだと思う。
 
どれも当たり前のことではあるけれど、優しく接しないと転んでしまうバイクにまたがってみて、改めて気がついたこと。転ぶことのないクルマでは、忘れてしまいがちなこと。
 
最後に、もうひとつ。
 
連日の炎天下に、取り立ての免許でバイクを走らせて気づかされたこと…
 
クルマとバイクの違いは、タイヤの数よりもなによりも、エアコンの有無である。


この記事を書いたライター

夢野忠則

自他ともに認めるクルマ馬鹿であり、「座右の銘は、夢のタダ乗り」と語る謎のエッセイスト兼自動車ロマン文筆家。

現在の愛車は手に入れたばかりのジムニーシエラと、トライアンフ・ボンネビルT120、ベスパET3 125。

   

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