冬の海のドライブは、あたたかい。

2019.01.21

冬はドライブの季節でもある。
なぜかと言えば、オートバイや自転車の旅だと寒いから。その寒さが良いのだ、とおっしゃる気持ちはもちろん承知しているけど、一緒に旅してほしい人もそう思ってくれるとは限らない。電車の旅なら寒くはない、とはいえ、冬は衣類やらなにやら荷物がかさばるでしょう?

冬の旅はドライブがいい。

冬だからといって、なにも冬らしい場所を目指す必要はない。むしろ夏に人気の高いところは冬もまた魅力的である場合が多い。そして、そうした場所ほど冬は閑散としていたりするから、その静けさが冬の風情とあいまって、またいいのです。

たとえば、誰もいなくなった海……。冬の海に、なにがあるのかって?なにもない。だから、いいのですよ。淋しいだろうって?だから、いいんじゃないですか。助手席にキミがいてくれたなら、もっといいけど。

今の時代は、なにかと慌ただしい。「慌ただしくしていること」と「充実していること」を取り違えてはいないか。心が荒れると書いて“慌ただしい”。特に夏は、やれ花火大会だ、野外フェスだ、キャンプだと、情報が多すぎて忙しい。ちなみに心を亡くすと書いて“忙しい”。

夏は、いろんなもののコントラストが強すぎる。だから、楽しくはあるけれど疲れもする。だけど冬は、柔らかな陽射しが光と影の境を薄墨のようにボカして、心を優しく包み込んでくれる気がする。しんしんと。

真冬に、星空を求めてクルマで国道を走り続けたことがある。小さな海岸にたどり着いて、ヘッドライトを消すとあたりは闇に包まれ、もちろん人影などなく、ドアを開けて降り立つと、波の音だけが聞こえてきた。見上げれば、冬の澄みきった空の彼方で、無数の星たちが凍えるように瞬いていた。

思わず、白い息をのんだ。

夏の海であればきっと、浜辺で若い連中が花火でもしながら騒いでいたことだろう。空気も冬ほどには澄んでいないから、瞬く星の数も違ったはずだ。冬の海には、波の音しか聞こえない。だから、そこにぽつんとたたずむと、宇宙のささやきさえ聞こえてくる気がした。

誰もいない冬の海辺は、吹きつける風が頬に痛い。だけど風の冷たさは、その寒さは、ふたたびクルマに乗り込んでドアを閉じた時に包み込まれる温もりでもある。冬の海のドライブは、あたたかい。

海じゃなくても、たとえば銀世界となった“避暑地”を訪れてみれば、夏とはまた違った表情に触れることができる。そこに待っているのは渋滞じゃなくて、きっと静かでゆるやかで、あたたかな時の流れ……。

山に向かうとなれば冬用のタイヤが必要になるけど、備えをして走り出せば、その先に広がる光景に、あなたもきっと白い息をのむだろう。冬だからといって、ドライブの行き先の選択が狭くなるとしたら、それはあまりにもったいないじゃないですか。

夏は去るものだから、みんな慌てて追いかける。でも、冬は迎えるもの。クルマに毛布やらポットやら積み込んで、クルマで冬を迎えに行こう。

冬の旅は、ドライブがいい。

この記事を書いたライター

夢野忠則

自他ともに認めるクルマ馬鹿であり、「座右の銘は、夢のタダ乗り」と語る謎のエッセイスト兼自動車ロマン文筆家。愛車は一万円で買った90年式のVWゴルフ2と、数台のヴィンテージバイク(自転車)



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