
Drive in Christmas ~サンタさんは、クルマに乗って~
雨は夜更け過ぎに、雪へと変わるでしょう……
カーラジオから流れる天気予報を聞きながら、まるでJRのコマーシャルみたいね、と助手席できみが笑った。
だけど、あの歌と違うのは、今夜がひとりきりのクリスマスイブではないってこと。さぁ、出発しよう。フロントウィンドウに当たるこの雨が雪へと変わったら、そこはふたりのホワイトクリスマスだ。ぼくは、ゆっくりとアクセルを踏み込んだ……。
ラジオからは、クリスマスにおなじみの曲が流れている。
わたし、子どもの頃、サンタクロースを本気で信じてた。
クリスマスイブに大雪が降ったことがあって、はしゃぐ私を寝かせつけようと父が言ったの。早く寝ないと、サンタさんが来てくれないよって。
サンタさんは、どこにいるの?
ほら、トナカイのソリの音が聞こえるだろう?
その時、本当に聞こえたのよ。窓の外から、シャンシャン、シャンシャンって。あとで気づいたんだけど、それはチェーンを巻いて雪道を走るクルマの音だったの。
ぼくもサンタクロースを信じていたよ。
ある年のクリスマスの朝、風呂場にお菓子のつまった長靴が落ちてた。すると、おやじが大真面目な顔で言ったんだ。
サンタクロースが煙突から出ていく時に、慌てて落としていったにちがいない……。
ぼくは、サンタがホントにやって来たぁ!って興奮したけど、よくよく考えたら風呂に煙突なんてなかったんだ。おやじが、前の晩にわざとそこに置いといたってわけさ。
あなたもわたしも、あの頃は父がサンタクロースだった。でも、ユーミンのこの歌のとおりだったわ。大人になれば、きっとわかるって。今夜8時に、サンタさんはやって来たもの、クルマに乗って……。
あれから何度、ふたりでクリスマスソングを聴いてきただろう。そして、これから何度、クリスマスソングを聴いていくことだろう。長いドライブの途中でクルマは変わっても、ラジオから聞こえてくる歌は変わらない。雪はとけても、刻まれたシーンが消えることはない。
後ろのチャイルドシートでは、息子がすやすやと眠っている。もう今では、雪が降ってもチェーンを巻いて走るクルマはあまり見かけなくなった。この子は、煙突すら見たことがないかもしれない。ぼくらは、どんな夢を見せてあげられるか。
フロントウィンドウの上を、細かな雪が舞いはじめた。明日は三人で過ごす、初めてのホワイトクリスマスになりそうだ。
カーラジオから、今年もジョンと子どもたちの歌声が流れている。
Happy Christmas ……
この記事を書いたライター

自他ともに認めるクルマ馬鹿であり、「座右の銘は、夢のタダ乗り」と語る謎のエッセイスト兼自動車ロマン文筆家。 現在の愛車はGT仕様のトヨタPROBOX(5MT)と、普通自動二輪免許取得と同時に手に入れたハスクバーナSVARTPILEN401、ベスパPX150。