冬の露天風呂は、しんしんと湧き出す。

夏に、阿蘇をドライブした。
「ミルクロード」と名づけられた道を走ったが、雄大な阿蘇の山なみを背景に、広大な牧野のなかを駆け抜けるワインディングロードは、まさに絶景街道と呼ぶにふさわしいスケールだった。
2019.01.21

夏に、阿蘇をドライブした。

「ミルクロード」と名づけられた道を走ったが、雄大な阿蘇の山なみを背景に、広大な牧野のなかを駆け抜けるワインディングロードは、まさに絶景街道と呼ぶにふさわしいスケールだった。

阿蘇の町を取り囲む外輪山の端から、わき腹を晒して隆起する山々を見渡せば、自分が地球という星の上に立っているんだな、と実感する。子どもの頃は、遠足に「また阿蘇かぁ」とぶつくさ言ったものだが、故郷の素晴らしさには、故郷を離れて初めて気づくものなのだろう。

ドライブの途中で、人気の黒川温泉に寄った。

温泉郷に入ると、川沿いに昔ながらの風情を残した温泉宿が寄りそうに軒を並べている。「日帰り混浴露天風呂」という案内板を見て、せっかくだから入ってみることにする。いや、たまたま目の前にあった温泉が混浴だっただけで…… せっかくだし……。

が、世の中、そんなに甘くはない。

ドキドキしながら素っ裸になり風呂に入ってみるも、昼時だったせいか残念ながら(?)先客はなし。な~んだ、と思いつつ、内心ちょっとホッとしながら貸切り状態の露天風呂に一人でつかる。川のせせらぎに耳を傾けながら、無様な裸体を伸ばしてお湯に浮かべた。いやぁ、癒されるなぁ。

が、ちょっと待て……

もしも、ここに女性が入ってきたら、いったいどんな顔をすればいいのか。もしや、いかにもそれを待っていた、と誤解されやしないか(いや、たまたま目の前にあったからで……)。小心者の九州男の下心はガラスのように繊細で、結局、どうにも落ち着かず、誰も来ないうちにと早々にお湯を出た。

が、なんと……

服を着て露天風呂の外に設えられた休息所で涼んでいると、うら若き女性三人組が「きゃぁ~、混浴だってぇ~!」と、はしゃぎながら目の前を過ぎ、露天風呂に入っていくではないか!

素知らぬ顔をして、もう一度、入るか…… けど、いったいどんな顔をして入ればいいのか…… もしや、いかにもそれを待っていた、と誤解されやしないか(ってか、もはや、それは誤解ではないし……)。小心者の九州男に夏の明るい陽射しは恥ずかしすぎて、濡れた後ろ髪を引かれるように、そっと黒川温泉を後にしたのであった。

露天風呂は、冬がいい。

あたりが雪に囲まれていれば、もっといい。たとえ混浴であっても、清らかで幻想的な雪景色が、妄想までもかき消してくれるにちがいない。そして空気が冷たいからこそ、さらに身体は温まる。頭寒足熱。その気持ちよさは、ヒーターを効かせて走る冬のオープンカーに通じるものがある。

雪見露天風呂には、過去に2回だけ入ったことがある。

群馬の宝川温泉と、栃木は塩原温泉。どちらも、たまたま(いや、ホントですって)混浴だった。湯けむりの向こうで、かすかに柔らかな人影が動く。あわてて視線をそらせば、雪景色の先に星がいくつも瞬いていた。端から溶けたココロが、雪帽子のように丸くなる。雪見露天風呂には、凛とした趣きとゆったりとした時間の流れがあった。

夏の温泉はこんこんと、冬のそれはしんしんと湧き出すのだ。

この記事を書いたライター

夢野忠則

自他ともに認めるクルマ馬鹿であり、「座右の銘は、夢のタダ乗り」と語る謎のエッセイスト兼自動車ロマン文筆家。愛車は一万円で買った90年式のVWゴルフ2と、数台のヴィンテージバイク(自転車)



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