「田舎暮らし」
なんとも不思議なニュアンスのある言葉。何にもない不自由な暮らしとも取れれば、伸び伸びとおおらかで快適な生活とも取れる。実際に「田舎暮らし」をしている方は、どんな心持なんだろう?
(今回は僕の友人で現在熊本県の南阿蘇村で生活を送っているご夫婦の奥様に「田舎暮らしの魅力について」電話でお話を伺うことができた。
実にたくさんの楽しみや快適さを伴う生活のようだ。
「不自由かどうか感じるポイントは生まれ育った環境によるものが大きいですよ」と語る奥様。地方で生まれ育った彼女にとっては不自由なことが普通なのだという。
「とにかく住むならお水が美味しいところ。お水が美味しければお野菜もお米も美味しい。人間の体の約6割は水分で出来ていることからも人間にとってどれだけ水という存在が重要なのかが分かる。だから水の綺麗な阿蘇に住むことに決めました。」
一時期都会で暮らしていたこともあるという彼女は話を続けた「たまに友人からそんな山奥に住んで夜怖くないの?と聞かれることがあるのですが、夜は真っ暗な場所で、そして朝は明るい太陽の光の下で暮らす。それが一番人間らしい気がするんです。あとは都会で見知らぬ人に囲まれて暮らすより静寂が全てを包みこむ森の中で暮らす方が安心します」
加えてこんな興味深い話も伺えた「都会にいた時はよく音楽を聴いていたのですが、移住してからはほとんど聴かなくなりました。というのも耳を澄ませば風が木々の葉を揺らす音、鳥の囀り、雨が地面に滴り落ちる音。それら全てが自然の音楽でそれを聴くのが心地よくてつい普通の音楽を聴く時間が減ってしまうんですよね」
約2年半前、この南阿蘇村で待望のお子様を授かった奥様。最後に「田舎で子供を育てるメリット」について伺った。「都会では知らない人に声をかけたら駄目と言って子供を育てると思うのですが田舎はみんな知り合い。だから村のみんなが子供を育ててくれます。たまにお互い干渉しすぎてプライベートの無さに戸惑うこともありますが、これも田舎の良いところなのかなと思います。また不自由だからこそ、子供が自分から興味を持つものを見つける必要がある。これは後に子供の積極性などに良い影響を与えるものだと考えています。もう田舎で子育てをしたら都会には戻れないですね」楽しそうに笑いながら彼女はこう言った。

都会の雑踏や街のネオンの中で青春時代を過ごした僕。16年間通い続けた渋谷はもう僕にとっては第2の家のような存在だ。スクランブル交差点が人混みでごった返す様を見る度に変な話だが心が落ち着く。でも数十年後にはもしかしたら都会の喧騒に嫌気がさして、田舎暮らしを始めている自分がいるかもしれない。そんな想像を膨らませながら、僕は静かに電話を切った。