ニュースレター

2018年5月16日

PRGRゴルフ用品事業、35年の軌跡

1983年、横浜ゴムはPRGR(プロギア)ブランドのゴルフ用品事業を開始した。当時ゴルフは急速に人気スポーツになりつつあったが、ゴルフ用品業界は厳しい競争が続いていた。後発メーカーとして参入を果たすには明確な特色が必要と考えたPRGRは、ヘッドスピード理論という科学に基づいたゴルフクラブ作りを提唱した。以来、番手ごとに設計を変えたアイアン、打ちやすい長尺ドライバー、やさしく打てるロングアイアン、クラウンをたわませて飛ばすドライバーなど、業界の常識を覆す数々のヒット商品を世に送り出してきた。

*横浜ゴムは昨年10月13日に創立100周年を迎えました。この機会を捉え、本ニュースレターでは当社の歴史的エポックとなった事業、製品などを紹介しています。

新規事業を計画、ゴルフ用品に的を絞る

1980年代前半、日本のタイヤ産業は世界的な同時不況のもとで低成長期へ移行、加えてラジアル化によるタイヤ長寿命化で需要が減退し厳しい事業環境にあった。こうした状況を打破すべく、横浜ゴムは1983年1月にFB(フューチャービジネス)開発室を設立し、タイヤ以外の新規事業の開拓に乗り出した。FB開発室は白紙の状態から検討を続け、テニス、マリンスポーツなども新規事業候補に挙げた。しかし成長産業であり、自社の技術が使え、企業イメージからも逸脱しないなどの点から、最終的にゴルフ用品に的を絞ることにした。

ゴルフ人気は高いが市場は厳しい競争状態

1980年代前半から1990年代後半にかけゴルフ人気は高まる一方だった。青木功選手のハワイアンオープン優勝(1983年)、尾崎将司選手の5年連続賞金王(1994年~1998年)、中嶋常幸選手の年間8勝の最多記録(1983年)などAON(青木、尾崎、中嶋の頭文字を取ってこう呼ばれた)の活躍、岡本綾子選手の米女子ツアーでの賞金女王(1987年)などにより、ゴルフは国民的人気スポーツとなっていった。しかしゴルフ用品市場は、日米の大手スポーツ用品メーカーなどが厳しい競争を繰り広げており、新規参入には大きな壁が存在した。

後発メーカーとして明確な特色を打ち出す

当時ゴルフクラブを選ぶ際は、その人の体格、身長などを参考に、力のありそうな人は重めで硬いシャフト、非力な人は軽めで柔らかいシャフトというように選択基準があいまいだった。またプロや上級者向けに設計されたゴルフクラブが多く、有名プロが使っているからと選んでも、必ずしもアマチュアが使いこなせるとは限らなかった。FB開発室はこうした現状分析を踏まえ、科学に基づく新理論を確立すればアマチュアでも自分に適したゴルフクラブが選べるようになり、さらに後発メーカーとして新規参入する際、新理論によって他社製品と差別化できると考えた。

業界に新基準をもたらしたヘッドスピード理論

FB開発室が注目したのはヘッドスピードだった。ヘッドスピードとは、ゴルフクラブのヘッドがインパクト直前の10センチの間を通過する速度(m/秒)のことで、これが速いほどボールの飛距離が伸びる。テストを繰り返した結果、ヘッドスピードの速さは必ずしも体格や身長に直結するものではないことが分かった。従って各人のヘッドスピードに応じて最も飛距離が出やすいように設計を変更すれば、体格や身長というあいまいな基準でなく、科学に基づいた精度の高いゴルフクラブ選びが可能になる。こう考えたFB開発室は、ゴルフ用品事業の柱にヘッドスピード理論を据えることにした。今日ヘッドスピードは、ゴルフクラブ選びの一般的な基準となっているが、その先駆けとなったのは横浜ゴムだった。

PRGRブランドのドライバーとゴルフボールを発売

1983年、横浜ゴムはPRGRブランドのゴルフ用品第一弾として、ヘッドスピード理論に基づいたカーボンヘッドドライバーM-1(エムワン)とツーピースゴルフボールを発売した。両商品ともにヘッドスピードを3m/秒刻みで、M34(34m/秒) からM49(49m/秒)まで6タイプを用意した。当時は金色や銀色に塗装されたドライバーが主流だったが、高精度の印象を打ち出すため、敢えてつや消しグレーのカラーリングを施した。PRGRのブランド名はPro(プロ)のGear(道具)から命名した。

M-1 ドライバー

ツーピースゴルフボールM-1ドライバー(上)とツーピースゴルフボール

科学に基づいたゴルフクラブづくりを追求

以来PRGRはヘッドスピード理論に代表される科学に基づいたゴルフクラブ作りを基本としながら、斬新な発想や新しい視点での開発を追求してきた。こうしたPRGRの姿勢はゴルフクラブ作りの世界に新風を吹き込み、上級者による競技ゴルフだけでなく、アマチュアゴルファーのエンジョイゴルフを支える数多くのゴルフクラブを生み出すことに繋がっていった。以下、その時々に話題を集めたPRGRゴルフクラブを紹介する。

● 番手ごとに設計を変更した500シリーズアイアン(1984年発売)

1980年代半ば、アイアンセットは同一のヘッドデザインで番手ごとにロフト角とシャフト長だけを変えたものが多かった。そうした中、番手ごとにヘッドとシャフトを設計し、やさしく打ちやすいアイアンとして発売したのが500(ゴヒャク)シリーズアイアン。ロングアイアンは打ちやすさと飛距離を追求しソール幅を広く、重量を軽く、一方ショートアイアンはコントロール性を重視し、ソール幅を狭く、クラブ重量を重くした。上級者、アベレージ、初級者向けにそれぞれ501、502、503を発売した。

500シリーズアイアン500シリーズアイアン

● PRGRの名を広めた長尺ドライバーμ-240(1986年発売)

ドライバーはシャフトが長いほどヘッドスピードが上がり飛距離が伸びるが、長くなれば振りにくくなりミート率が落ちる。当時、シャフト長は42.5から43インチが一般的とされた中、敢えて44インチの長尺ドライバーμ-240(ミュー・ニイヨンマル)を発売した。シャフトの軽量化(55グラム)、クラブの長さを感じさせない長めのグリップなどによって、長尺でも振りやすい設計とした。μ-240はアマチュアでもやさしく飛ばせるドライバーとして売上を伸ばし、PRGRの名が広く知られるきっかけとなった。

μ -240 ドライバーμ-240ドライバー

●「タラコ」の名称で大ヒットしたINTEST LX(1988 年発売)

ロングアイアンは上級者だけのものと考えられていた時代、軽量、低重心、高弾道で170~200ヤード前後の距離をやさしく打てるロングアイアンINTEST LX(インテスト エルエックス)を発売した。INTEST LXはステンレスとカーボンの複合ヘッド構造を採用。ヘッド形状の印象からタラコと呼ばれ大ヒット商品となった。またこのロングアイアンを単品で販売するという画期的な発想も大ヒットに拍車をかけた。

INTEST LXINTEST LX

● 初の本格的女性用ゴルフクラブM-30(1988年発売)

M-30(エム・サンジュウ)は初の本格的女性用ゴルフシリーズ。女性の標準的なヘッドスピード(27m/秒~30m/秒)を前提に、女性の筋力、スイングプレーンなどを考慮して開発した。軽量でロフト角を大きく(15度)設計しボールを上がりやすくしたドライバー、ボールが上がりやすい低重心設計のフェアウェイウッド、握力の弱い女性でもしっかり握れる刻み目の入ったグリップなど、細部に渡って女性向けならではの工夫をほどこした。

M30シリーズM30シリーズ

● 科学から生まれたレインウェアRAIN COMPO(1989年発売)

PRGRは1985年からゴルフウェアの販売を開始した。中でもヒット商品となったのが1989年に販売を開始したRAIN COMPO(レイン コンポ)だった。一般にレイン用ウェアは、防水性だけを重視するならゴム合羽が最適だが、スポーツウェアとしては動きづらく、内部が蒸れて汗ばむ。PRGRはレインウェアを科学し、東レ株式会社の新素材エントラント®を用いてRAIN COMPOを開発した。エントラント® は外部から雨の侵入を防ぐ一方、ウェア内部に溜まる汗を外部に通すため蒸れることがない。PRGRの代表的ウェアとして2012年まで23年間に渡り販売された。

● B・ワッツ選手の活躍を支えたDATA 601アイアン(1994年発売)

1994年、PRGR契約プロとなったブライアン・ワッツ選手が3年間使用し続けたのがDATA 601(データ・ロクマルイチ)アイアン。ワッツ選手はDATA 601アイアンを使い、1994年に国内男子ツアーで5勝(通算12勝)し、賞金ランキングでも2位となった。番手ごとにヘッド、重心、シャフト設計を変えた高精度の軟鉄鍛造キャビティアイアンで、全番手で地面から重心までの高さを一定に揃えることで正確なショットを可能にした。

DATA 601アイアンDATA 601アイアン

●黒チタン、赤チタン、銀チタンの3系例で展開(1994年~1996年発売)

1990年代中頃、ドライバーヘッドの重心は従来のパーシモン(樫の木)ヘッドの影響で、フェースのやや上にずらして設計するのが主流だった。しかしPRGRは、ヘッドの重心がフェースのセンタ―にあればボールに対するエネルギーロスが小さく、最適なスピン量が得られると考え、ヘッド形状をリバース(逆にする)に設計したDATA WOOD REVERSE Titanium(データウッド・リバース・チタン)ドライバーを発売した。それぞれ通称で、上級者向けの黒チタン(1994年)、シニア向けの赤チタン(1995年)、アベレージ向けの銀チタン(1996年)の3系列をラインアップした。
黒チタン(左上)
赤チタン(右上)
銀チタン(左下)

黒チタン(左上)
赤チタン(右上)
銀チタン(左下)

● やさしく大きな飛びを実現したアイアン型ユーティリティZOOM(1997年発売)

ZOOM(ズーム)は、200ヤード以上を正確に狙いたい上級者、スコアアップを目指す中級者向けに開発した。1988年に発売したINTEST LXをさらに進化させ、チタンとタングステン合金の比重差を利用した低重心設計とキックポイントを最適化した長尺シャフトで、やさしく大きな飛びを実現した。

ユーティリティ型アイアンZOOMユーティリティ型アイアンZOOM

● PRGR最高売上を記録したDUOドライバー(2002年発売)

2000年代初め、ゴルフ業界では飛び性能に優れた高反発ドライバーの人気が高まった(2008年以降、競技での使用は禁止)。PRGRは高反発ドライバー向けに、インパクト時の衝撃をクラウンのたわみに変えて飛距離を伸ばすDUO(デュオ)構造ヘッドを開発。2002年に同ヘッド構造を採用したプロゴルファー、上級者ゴルファー向けのTR DUO(ティーアール・デュオ)、アベレージゴルファー向けのTR-X DUO(ティーアール・エックス・デュオ)を発売した。2003年には両クラブ合計で、PRGRドライバー最高の売上を記録した。

TR-X DUO ドライバーTR-X DUOドライバー

●飛びと打ちやすさに特化したeggシリーズ(2007年発売)

2007年、「既成概念にとらわれない」をコンセプトに、飛びと打ちやすさを追求したegg(エッグ)アイアンを発売した。大きなキャビティに超ワイドソールでカラーは黒。これまでのアイアンとは見た目、形状が異なったが、優れた飛距離特性を持つことからシニアゴルファーを中心に売上を伸ばした。2010年発売の2代目NEW egg(ニュー・エッグ)スプーンはクラウンがない独特な形状を採用、やさしく飛ばせるスプーンとして注目された。

NEW eggスプーンNEW eggスプーン

●シニア向け高反発ドライバー金egg(2015年発売)

SUPER egg(スーパー・エッグ/通称金egg)は、「かつての飛びを再び手に入れれば、ゴルフはもっと楽しくなる」をコンセプトに開発した反発係数に関するSLEルール適合外の高反発ドライバー。2015年にエンジョイゴルフを目的にするシニアゴルファーにユーザーを絞って発売、多くのシニアゴルファーから支持を集めるヒット商品となった。

SUPER eggドライバーSUPER eggドライバー

●反発係数を規制値ぎりぎりまで高めたRSドライバー(2016年発売)

2016年に発売したRS(アールエス)ドライバーは、クラウン部にたわみをもたせ、フェースの反発係数を規制値ぎりぎりまで高めたのが特徴。ドローが打ちやすいRSのほか、フェードが打ちやすいRS-F(アールエス・エフ)も発売した。

RSドライバーRSドライバー

*次号では、タイヤ以外の製品を取り扱うMB(マルチプル・ビジネス)事業の歴史をご紹介する予定です。