上手くいくDIYのコツは、失敗を楽しむこと?

2018.06.19

気がつけば、自転車をイジっている。

古いフレームを手に入れて、パーツのひとつひとつを吟味しながら集めては磨き、自分で組み付けていく過程が楽しい。今ではほとんどの作業を自分でこなすことができるが、生命に関わるものでもあるから、路上に出る前の最後のチェックはいつも自転車屋さんにお願いしている。そして、その的確な診断と調整の手際を目の当たりにするたびに思い知らされるのだ。素人は、しょせん素人なのだ、と。

クルマ雑誌「ナビカーズ」では、「夢のドライブ」という連載を書かせていただいている。その時々に気になるクルマを借り出して、好きなところをドライブしてエッセイを書くという、クルマ馬鹿にとっては文字どおり夢のような企画である。

毎回、ドライブにはカメラマンの阿部昌也さんが同行し写真を撮ってくれる。その写真は毎回こちらが期待している以上の仕上がりで、連載が続いているのは文章よりも写真のチカラによるほうが大きいのではないか、とたまに不安になったりしている。

阿部氏の写真の素晴らしさについてはもはや驚くことはないが、シャッターを押すまでの彼の周到な準備には、いつも感嘆する。メインカットを撮るのに手前のベンチが邪魔ではないですか?と確認すると彼は、さらりと「あのベンチは置いてあるだけだから移動できます」と答える。聞けば、現場に一時間前にやって来て確認したのだとおっしゃる。

お金を出せば、プロと同じ機材を手に入れることはできる。ハウツウもインターネットの動画で教えてくれる。だから今の時代には素人でも、まるでプロのカメラマンの“ような”写真を撮ることができる。が、しかし当たり前のことではあるが、素人は素人でしかない。プロフェッショナルは、シャッターを押す前にすでにイメージ通りの一枚を手に入れている。

カメラマン以外にも、仕事がらみでさまざまな職人さんとご一緒させていただくことがある。大工、左官、塗装……。それぞれの職人さんたちが使うのと同じ道具や材料も、今ではホームセンターに行けば手に入る。だから素人も、DIYでなんでも作れてしまう“ような”気になるが、プロフェッショナルはやっぱり違うのだ。

まず、道具の手入れが違う。彼らの使う刃物は、常によく切れる。次に、仕事は早いが、だからといって決して慌てたり焦ったりはしない。そして彼らは万が一失敗してしまっても、それを取り返す術(すべ)を知っている。だから恐れずに、迷わず切ったり貼ったりできる。切れないカッターで壁紙を切り、焦って塗料を垂らし、失敗を恐れて釘打ちを躊躇する素人とは、そこが違う。彼らの辞書に「できませんでした」という文字はない。

だから、DIYなんて止めたほうがいい、と言いたいのではなくて……。

自転車屋さんにしてもカメラマンにしても、職人さんにしても、もちろんスキルの差はあるにせよ、われわれ素人との決定的な違いは、なによりも積み重ねてきた経験なのだ。彼らは経験を通じて知っている。チェックすべきポイントを、事前の準備の重要性を、道具の手入れの大切さを、作業を焦ってはいけないことを。

DIYに挑戦するなら、まずは経験を、つまりは失敗を重ねることだ。幸いなことに、DIYなら「できませんでした」が何度でも許される。プロのような仕上がりを目指す必要はない。素人ならではの失敗を楽しもう。そのゆとりこそが、きっと上手くいくDIYのコツなのだろうと思う。

もしかしたらDIYのYは、ゆとりのYかもしれません。

ライター紹介

夢野忠則

自他ともに認めるクルマ馬鹿であり、「座右の銘は、夢のタダ乗り」と語る謎のエッセイスト。
クルマ雑誌「ナビカーズ」では自動車ロマン文筆家として人気コラム「クルマ馬鹿で結構!」やドライブエッセイを連載中。愛車は一万円で買った90年式のVWゴルフ2。ヴィンテージバイク(自転車)

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横浜ゴム株式会社