「ここで私は、日々を収穫する」北海道への移住で見つけた生き方

人生の選択肢のひとつ「移住」は、十人十色それぞれ全く異なる形をしている。
北海道・札幌のゲストハウスで働く関口翠(せきぐちみどり)さんは、約1年前に地元の群馬からこの地に移住してきたばかりだ。
今回は、絵画という表現と共に生きてきた翠さんに、北海道へ移住した理由を尋ねてみた。彼女が語る言葉の中には、旅で訪問するだけでは見えてこない景色が広がっていた。
2018.05.14
翠さんが捉えた北海道の景色たち。写真一つひとつが自分の表現したい作品のようなものだと語る。

5日分の荷物で2ヶ月間。自然に浮かんだ「移住」という選択肢

東京の美術大学で油絵を制作した翠さんは、卒業後も自身の芸術活動を続けようとアルバイトや派遣勤務で生活を営んでいた。
「卒業後の東京での生活も充実していましたが、いつの間にか自分自身を損ないながら暮らすような生き方をしていました。気づけば筆を手に取ることも出来なくなってしまい、『これが八方塞がりなんだ』と動けなくなってしまったのです」

環境を変えるべく地元・群馬に帰った彼女は、生まれ育った地で「部屋の隅で膝を抱える」ような生活をはじめたという。
「とにかく毎日を淡々と生きることしかできませんでした。知り合いからいただいた仕事を細々とこなして、家事をして料理をして……。今まで消費しまったものを再構築するように生活していました」

2年間の充電期間を経て、そろそろアクションを起こそうかと考え始めた矢先のことだった。知り合いの結婚式に呼ばれ、偶然北海道へ行くこととなった翠さん。北海道へは以前、絵を描くために3週間ほど滞在した経験もあったという。
「とりあえず5日分のスーツケースに荷物を詰め込んで飛び出しました。そして気づけば2ヶ月も滞在していたという(笑)」

北海道では、ゲストハウスの フリーアコモデーション(ゲストハウス内の掃除や雑務を行うことで、滞在費が無料になる仕組み)を利用し、新たな環境に身を置いていた。ワールドワイドな出会いや知らなかった日々の過ごし方。充実した生活の中で、いつしか移住を意識しはじめたという。

「端から見れば無計画なことかもしれません。けれど自身の直感で『この場所だ』と思ったのです。自然と移住するということが選択肢のひとつとなっていました。数多くのご縁に恵まれながら、自分の心の囁きを正直に受け入れて、人生の大きな流れに飛び込んでみたのです」

生き方と街が共鳴する。札幌で見つけた丁寧な生活

地元の群馬、東京での一人暮らし生活を経験した翠さんは、札幌を「今までに経験したことのないような土地」だと表現する。
「札幌は東京のような大都市とは異なり、空気や空が澄み渡っている一方、私の知っている地方都市とも異なりました。ここは歴史的に見ても新しく拓かれた都市ということもあり、外から来た人も少なくありません。だからこそ人々がちょうど良い距離感を保って生活しているのでしょうか」

さらに北海道特有の気候も、生活に影響を与えていると話す。
「例えばここでは4月下旬に多くの人がガーデニングを始めるため、一斉に街が華やぎ、春の到来を感じることができます。この地に住まう人々は『もたらされた季節を無意識のうちに取り込みながら生活をしている』のです。取り巻く環境や気候を敏感に捉え、日常的に季節を満喫していて、それが素敵だなって思うんです」

「ひらめきを拾って生きる」これからも続く北海道での日々

莫大な暖房代に嘆きつつも「やっぱり好きな季節は冬なんですよね」と彼女は言う。
「新雪のパウダースノーも好きなのですが、冬の終わりを感じさせる氷のように凝縮した雪がとても美しいんです。夜には街灯を反射してキラキラと輝き、街全体が星空のようになるんです」

一度は行き詰まり、芸術から離れてしまった翠さんは、この地で徐々に制作活動を再開しはじめている。
「私の作品は、オリーブオイルのように、暮らしの近くにあるものを用いて制作されます。軸足は絵画に置き、日々を営む中で湧き出るものをキャッチして描くスタイルを続けているんです」
流れる時間やリズム、ふとした景色に、自身の感覚が刺激されると語る翠さん。彼女はそんな日常を「ひらめきを拾って生きる」と言い表した。
「でも私なんて、まだ札幌しか知らない北海道初心者。これからも北海道の見たことのない風景と出会っていきたい。そして制作を通じて日々を収穫して生きていきたいです」

少し照れつつも語る彼女が発する言葉は、とても素直でまっすぐなものだった。紆余曲折しながらも、自分の生き方と対話し続けた人間が見つけた、新たな居場所。翠さんは今日も、ひらめきを拾いながら日々を歩んでいる。

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